下水処理とマイクロプラスチック

下水処理プロセスの各段階におけるマイクロプラスチック捕捉の現状と対策:現場で考える最適なアプローチ

Tags: 下水処理, マイクロプラスチック, 捕捉技術, 処理プロセス, 現場対策, 汚泥処理, 維持管理

はじめに:下水処理場とマイクロプラスチック対策の重要性

近年、海洋を含む水域環境におけるマイクロプラスチック汚染が国際的な課題となっています。陸域からのマイクロプラスチック排出源の一つとして、下水処理場が注目されています。家庭や事業所からの排水には、衣類から出る合成繊維くず、パーソナルケア製品に含まれるマイクロビーズ、プラスチック製品の破片など、様々な種類のマイクロプラスチックが含まれており、これらが下水管を通じて下水処理場へ流入します。

下水処理場は本来、有機物やSS(浮遊物質)などを除去し、公共用水域の水質保全に貢献する重要な社会インフラです。しかし、既存の処理プロセスがマイクロプラスチックをどの程度捕捉できているのか、また、より効率的に除去するためにはどのような対策が可能か、という点が現場技術者や管理者にとって新たな課題となっています。本記事では、下水処理場の各プロセスにおけるマイクロプラスチックの捕捉メカニズムと現状を整理し、現場で実行可能な対策や導入にあたっての留意点について解説いたします。

下水処理プロセスとマイクロプラスチックの挙動

一般的な下水処理プロセスは、前処理、一次処理、二次処理、そして必要に応じて三次処理や高度処理から構成されます。マイクロプラスチックは、そのサイズ、形状、密度、材質などによって、各プロセスにおける挙動が異なります。一般的に、サイズの大きなマイクロプラスチックは物理的な分離プロセスで捕捉されやすく、微細なものは生物処理における凝集・沈降や高度処理プロセスで捕捉される傾向があります。

各処理プロセスにおけるマイクロプラスチック捕捉の現状と対策

前処理(スクリーン、沈砂池)

一次処理(最初沈殿池)

二次処理(生物反応槽、最終沈殿池)

三次処理・高度処理(砂ろ過、膜分離、活性炭吸着など)

汚泥処理プロセスにおけるマイクロプラスチックの行方

下水処理プロセスで捕捉されたマイクロプラスチックの大部分は、汚泥として濃縮されます。濃縮・脱水された汚泥は、焼却、コンポスト化、農地利用など様々な方法で処理されます。汚泥中のマイクロプラスチックが、これらの処理プロセスを経ることでどのように変化し、最終的にどこへ行くのか(大気中、焼却灰、コンポスト、土壌など)は、環境中への排出という観点から重要な課題であり、現在も研究が進められている分野です。

規制動向と今後の展望

現状、日本において下水放流水中のマイクロプラスチックに関する直接的な排出基準は設けられていません。しかし、国際的な動向や研究の進展によっては、将来的に何らかの規制が導入される可能性も考えられます。 現場においては、まず現在の処理プロセスでどの程度のマイクロプラスチックが除去できているのかを把握することが第一歩となります。そして、既存設備の運転管理の最適化や、段階的な設備改修・更新の検討を通じて、可能な範囲で捕捉率を向上させていくアプローチが現実的です。

まとめ

下水処理場は、現状のプロセスでも多くのマイクロプラスチックを捕捉する機能を持っています。特に二次処理の活性汚泥法とそれに続く最終沈殿池は、マイクロプラスチック捕捉において重要な役割を果たしています。前処理や一次処理でも一部捕捉されますが、微細な粒子への対応には限界があります。高度処理は高い除去率を示しますが、導入・運用コストが増大します。

現場技術者としては、まず自施設の現状の処理能力を把握し、日々の運転管理の最適化によって、マイクロプラスチックを含むSS除去率の向上を図ることが基本的な対策となります。新たな技術導入を検討する際には、その技術のマイクロプラスチック除去効果だけでなく、導入コスト、運用・維持管理コスト、既存設備との連携、そして捕捉したマイクロプラスチックを含む汚泥の処理方法まで含めた総合的な評価が不可欠です。

マイクロプラスチック対策は、下水処理場にとって新たな課題ですが、既存の排水処理技術の理解と適切な運用管理、そして将来を見据えた技術検討を通じて、着実に対応していくことが求められています。